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立華リツカについての考察

だんでび

 ネタバレあります

 

 立華リツカは、四皇學園に通う、ハーブティーとシュークリームが好きな(自称)普通の女子高生。

 母親との仲は良好で、毎日いってらっしゃいを言ってもらえる家庭。兄からは溺愛されて、学校にはアズナという優しい親友もいる。学校が私立の名門らしいので、お家はそこそこ裕福なんだろう。住んでいるところも高級住宅街っぽいし。物語の主人公にピッタリな、幸せの匂いがするような女の子だ。実際、彼女が「愛されている」という事実は作中で覆ることがないので、どう転ぼうがそんなに不安になることはない。このへんがシャウエッセンを齧りまくるアニメとは違うので、心がしんどくなることはあんまりない。

 ただ、悪く言えば、彼女はかなり甘やかされて育っている、のである。そのせいか、彼女は誘われれば相手が誰であろうと行き先が何処であろうとホイホイついていく。年頃の女の子にしてはあまりにも警戒心が薄い。知らない人にはついて行っちゃいけませんって小学校で習ったでしょ!

 恐らく、過保護に育てられた結果、世界の綺麗な所ばかりを見て、汚い部分をおよそ知らないのではないか、と思う。世の中には怖い人もいる、あなたを傷付けようとするものがたくさんあるという、実感がないのである。人間は、言葉で教えられても、実感がなければいまいちわからないものである。野球のルールを説明されて知っているからといって、実際にできるかといえば別だろう。

 シキとのエピソードでは、本当は恐ろしい真実をその目にしていたのだという内容が示唆されている。しかしあの場面がなければ、リツカはその真実を完全に忘れていたし、思い出すこともなかっただろう。忘れていた、というよりも、忘れさせられた、の方が正しいかもしれない。彼女の家族がシュークリームとハーブティーで真実を巧妙に隠し、蓋をしててしまったのだ。

 リツカには、愛してくれる母親と、いつも守ってくれる兄のリンドがいたせいで、本気で自分を傷付けようとする存在というのがいまいちわからないのではないか。禁断のグリモワールであるというのもあって、通常よりもさらに大切に大切に、悪い道へ行かないようにと育てられていると考えられる。「愛されている」「大切にされている」「守ってもらえる」という意識が根底にある故に、見るからにヤバそうな相手であっても警戒心が薄い。相手が本気で自分を傷付けようとしているとは思わないのである。リンドとメィジの間に入ったときも、この人達は自分を傷付けないという無意識のうちの認識があったのだと思う。だからこそ、リンドに頬を引っ掻かれた時は恐怖よりも茫然とした驚きの表情がまっさきに出てきたのだと思う。

 しかし別にそれが悪いという訳ではない。そういった、いわゆる自尊心をしっかりと持っている彼女は、相手が誰であろうと嫌な時は嫌だとハッキリ言える。態度で示し、抵抗することもできる。周りにいる男どもの自己主張が強すぎるだけで、彼女は意志が弱いわけではない。実際ウリエには平手打ちまでかましているし、窓に錠が掛けられればバールのようなもので窓ごと壊して脱出する。強い。

 母親がさらわれていても、自分が危ない目にあっても、気丈に振る舞えるし、学校にもちゃんと行く。メインヒーローが氷の心(笑)なら、ヒロインは鋼の心でも持ってるように見える。本当に普通の女子高生か?と疑う程に強い。そういえば序盤から生徒会に呼び出されて校則違反の濡れ衣を着せられたときも、「ハァ?私は校則違反なんてしてませんけど!」って部屋飛び出してたもんね。あの状況で中々できないと思う、かなり気が強い。恐らく、自分の意見が尊重されなかったり、握りつぶされるという経験を幼少期にしていないから、恐れずハッキリと物を言えるのだろうと思う。良い事だ。

 ストーリーの都合もあって、フラフラと危険な場所に突っ込んでいくアホガールに見えてしまう部分はあるし、実際ちょっとイラっとさせられる部分もある。けれど彼女はまだ高校生で、相手は大人、どころか何年生きてるのかわからない人外達である。そもそも彼女にだけ情報が殆ど開示されておらず、「みんな何考えてんのかまったくわかんねぇ!」という状況だろう。兄であるリンドさえ、留学前とは違って様子がおかしいし。イギリスでやばい宗教にはまっちゃったのかと思うでしょ普通は。生徒会は意味わかんないし、会長のレムなんて表情が全然変わらないから怖いし。誰を信じていいのかわからずフラフラしてしまうのは、仕方ないとも言える。

 別記事でリツカに開示された・知り得た情報を、時系列順に並べてみる。

 

osasimi.hatenablog.com

 まぁ 警戒心なさすぎって結論にはなるよね!

 

 もっと「外は怖い人だらけだ」と言い聞かせ、厳しい女子校にでも放り込むなり軟禁しておくなりすれば良かったのではと思ってしまうけれど、たぶん周りは普通の女の子として育てたかったんだろうなぁ。それこそ17歳の誕生日を過ぎれば、彼女はなんの変哲もないただの女の子になる。彼女自身の人生を考えれば、親としては、グリモワールとして育てるよりも普通の人間として育てたいはずだ。協会の人間に言わせれば「一人の為に世界が滅ぶなんてまっぴらごめんだから殺せ」なんだろうけど。まあ一理あるよね。「私なんて死ねばいい」という言葉だけは、絶対に言わせたくないから守らなければという家族の気持ちが、彼女を追い詰めてしまう一つの要因になってしまったわけだけど。

 結局は、普通の子として育ててあげたいという狙いが「守られるべき女の子」としてのリツカを形成し、守られるべき「禁断のグリモワール」の性質を作り上げてしまったのだろう。

 レムが彼女に「ただの駒だ」と言ったことに深く傷ついたのも、このあたりに起因しているのではないかと思う。普通の人間でもそんなことを言われたら嫌な気持ちになるだろうし腹も立つけれど、リツカの場合は腹を立てるよりも、まず衝撃を受けて、傷つき悲しんでいる。恐らく、彼の行為に「愛情がなかった」という事にショックを受けているのではないかと思う。

 基本的に、彼女は愛されて育っている。彼女に優しく接してくれる人は、みんな彼女を愛している。「愛のない優しさ」というのが、リツカには思いつきすらしないのではないか。一話で、リツカがレムに助けられてお礼を言った際に、「別にお前の為じゃないんだからね!」というレムの言葉に驚いたような表情をしたのも、実際に驚いていたからだろう。リツカが誰かに対して優しく接する時は、常に愛情が裏打ちされている。打算や、何か別の目的の為に誰かに優しくするという行為自体、リツカにとっては予想外で信じられないのだ。そのため、リツカは「私もあいつを利用してやる!」という思考に陥ることはない。そもそもそういう発想がない。相手を陥れてやろうとか、傷つけてやろうとか、そういうパワーのある感情は、リツカにとっては衝撃的で悲しいものなのだろう。

 アズナがエクソシストであると知ったときも、「私の事を思っての嘘」であったそれは許容した。相手への愛情がある行為であれば、嘘のようなネガティブなものであってもリツカは肯定する。愛情や思いやりに敏感で、相手をぞんざいに扱う、すなわち相手を人間扱いせずただのもののように振る舞うことを嫌う。

 ヴァンパイアの王ネスタに、伯母マルタへの愛はなかったのかと問うシーンがあるが、それがリツカの本質なのだろう。愛なき結婚、愛なき行為、愛なき出産なんて、リツカには考えられない。愛なき時代に生まれたわけじゃないもんね。

 そうそう、リツカは、愛のない欲望に嫌悪感を示す。悪魔達の執拗な誘惑に抵抗し続け、ヴァンパイアの根城でも与えられるであろう快楽をはっきりと拒絶する。少女性というか、ジェキも言っていた通り、彼女は成熟した女ではない。第二次性徴を迎えたばかりの、最近性別が決まったような女の子だ。そんな乙女なリツカには、性はまだ受け入れがたいものであり、拒絶していたいものなのだろう。最終話ではしっかり大人の階段をのぼっているように見えたので、そういった意味でも彼女の成長物語だったのだなあと思う。

 そんな彼女の成長を促した存在の一人、アズナ。彼女の立ち位置はリツカの親友であり、守護者でもあった。その事実は、リツカ自身が一番理解していたのではないだろうか。結局、作中で命懸けでリツカを守ってくれたのはアズナだけなのだ。リツカの為を思って、エクソシストであることを内緒にし、知られたら嫌われてしまうかもしれないと怯えながらもその恐怖を隠して笑っていた。リンドはそういった弱い部分を隠しきることができない人だったように思う。

 アズナの死亡シーンでも、彼女は捕えられたリツカを取り戻す為に瞬時に短剣で敵のヴァンパイアに挑んでいる。これは恐らく、男性陣には難しい行動だろう。下手に動けばリツカに害が及ぶかもしれない、と考えて身動きが取れなくなってしまっていたのではないかと予想できる。アズナはそれよりも、リツカ自身が最優先だと瞬時に判断し、自分を顧みることなく突っ込むことができた。そのあたりは、同性の親友だから、という部分は大きいかもしれない。

 リツカにとって、アズナは、いつも寄り添い守ってくれる人である。だからこそ、終盤のヴァンパイアの城に連れてこられたあたりで、アズナに励まされる回想があったのだと思う。リツカにとって、母やリンド達家族は日常であり、守りたいもの。アズナはいつも守ってくれる親友なのだ。他の誰でも、レムでもリンドでもない。守ってくれるのはアズナだと、わかっていたのだ。

 だからこそ、ネスタの心臓を刺すシーンでも、アズナの短剣がイメージとして投影されたのである。勇気をくれるのも背中を押してくれるのも命懸けで守ってくれるのもアズナ。ぶっちゃけアニメはアズナルート。

 少女が友人の手を取り、大人の女性へと変身する過程において、男はただ見ているしかないということをドーンとやってのけた最終回はとんでもなかったね。っていうかそもそもリツカは男性の手を必要としないタイプの人だったんだろうなと思いました、今。男性の手を借りずとも、自分で成長していけるタイプの人。だから父親がいなくとも真っ直ぐに育ったし、兄が留学していても平気。それなのに周りの男達が勝手にお前は俺が守るだの俺のものだのやいやい騒ぐから、最終回でとうとうキレた。みんなリツカの意見そっちのけでぎゃいぎゃい争うもんね、そりゃ怒るわ。選ぶ権利くらいあるわ、と。

 彼女が最終的に選んだのも、自分の力で生きる道だ。愛情や欲望を知った上で、それにおもねることも溺れることもなく、自分の足で歩くことを決める。リツカはさくっと決断しているけれど、結構難しいことだと思う。人間だから、目の前に権力があったら、それにすがりたいもん。世の中にはたくさん怖い物があると知ってしまったら、それらから守ってくれる盾の後ろに隠れてしまいたい。でも彼女は、剣を取って立ち向かう道を選んだ。

 そういうところは、やはり愛情を受けて育った人間らしいと言えるだろう。愛情を信じ、前を向ける強さは、それだけ強い愛情を受けた経験に裏打ちされているのだと思う。

 

 あんまり長くなってもあれだしこのへんにしとこう。適当にまとめると、リツカちゃんは愛される為に生まれてきたみたいな愛しい子だけど、ぶっちゃけそこまで愛は必要としていないよ!って感じ!

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